古い看板

彼は毎日、通勤途中に古い看板を見ていた。看板はかつては鮮やかな色で「夢の国へようこそ」と書かれていたが、今では色あせて文字も読みにくくなっていた。看板の向こうには廃墟と化した遊園地が広がっていた。彼は子供の頃、その遊園地に何度も連れて行ってもらったことを思い出した。メリーゴーラウンドやジェットコースター、お化け屋敷やゲームコーナーなど、楽しい思い出がたくさんあった。彼はその頃のことを懐かしく思いながら、看板に向かって手を振った。

ある日、彼は仕事帰りに古い看板の前で立ち止まった。何かが彼を呼んでいるような気がしたからだ。彼は迷わず看板の下をくぐり、廃墟と化した遊園地に入っていった。すると、不思議なことに、遊園地は彼の記憶の中の姿に変わった。色とりどりの光が輝き、楽しい音楽が流れ、人々が笑顔で歩いていた。彼は驚きと喜びで目を丸くした。

「おかえりなさい」と、背後から声がした。彼は振り返ると、そこには幼い頃によく遊んだ友達が立っていた。「久しぶりだね。一緒に遊ばない?」友達は彼の手を引いて、メリーゴーラウンドに向かおうとした。

「いや」

彼は立ち止った。

「どうして?楽しいよ?」

「私には守らなければならない家族がある。子供たちに今の楽しさを教えてやりたいのさ」

「そっか、残念」

幼い友達はニコッと笑って消えていった。

ふと見るとそこにあったのは古い看板だった。

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